導入:純資産を把握し、家計の真の健全性を測る
- 1. 純資産(Net Worth)の基本的な定義と家計における重要性
- 2. 純資産の計算方法とバランスシートの構造
- 3. 純資産の評価:債務超過と健全性の判断基準
- 4. 純資産を構成する主要な資産と負債の分類
- 5. 純資産を最大化するための戦略:負債の効率化
- 6. 純資産を最大化するための戦略:収入と支出の最適化
- 7. ライフステージごとの純資産目標と変動要因
- 8. 純資産の成長を阻害するリスクと対策
- 9. 純資産の継続的な管理と行動計画
- 10. まとめ:純資産を把握し、未来の選択肢を広げる
- 1. 純資産(Net Worth)の基本的な定義と家計における重要性
- 2. 純資産の計算方法とバランスシートの構造
- 3. 純資産の評価:債務超過と健全性の判断基準
- 4. 純資産を構成する主要な資産と負債の分類
- 5. 純資産を最大化するための戦略:負債の効率化
- 6. 純資産を最大化するための戦略:収入と支出の最適化
- 7. ライフステージごとの純資産目標と変動要因
- 純資産=貯蓄 + 投資 − 借金(住宅ローン除く)
- ① 20代:基礎形成期
- ② 30代:成長加速期
- ③ 40代:安定資産形成期(勝負の10年)
- ④ 50代:資産仕上げ期
- ⑤ 60代:リタイア前後(資産維持期)
- 8. 純資産の成長を阻害するリスクと対策
- 9. 純資産の継続的な管理と行動計画
- 10. まとめ:純資産を把握し、未来の選択肢を広げる
1. 純資産(Net Worth)の基本的な定義と家計における重要性
純資産とは何か?FPにおける核心的な定義
純資産が「家計の健全性」を示す唯一の指標である理由
資産(Assets)と負債(Liabilities)が純資産に与える影響
純資産を増やすことと、経済的自由(FIRE)の達成の関係
2. 純資産の計算方法とバランスシートの構造
純資産の算出公式と具体例
純資産の計算式:
純資産 = 資産総額 – 負債総額
家計のバランスシート(資産負債一覧表)の作成手順
資産と負債の評価:時価と簿価の使い分け
【表】簡略化した家計のバランスシート例
| 資産の部(左側) | 負債・純資産の部(右側) |
| 流動資産(預金、現金) | 負債(住宅ローン、カーローン) |
| 固定資産(不動産、株式) | 純資産(純粋な自己資本) |
| 資産総額 | 負債総額+純資産額 |
3. 純資産の評価:債務超過と健全性の判断基準
債務超過とは何か?純資産がマイナスとなる状態
債務超過がもたらす家計の2つのリスク(信用、精神)
純資産がゼロの状態(±0)の持つ意味
健全な家計の純資産比率と適正水準
4. 純資産を構成する主要な資産と負債の分類
資産側の要素:流動資産と固定資産のバランス
負債側の要素:良い負債(レバレッジ)と悪い負債(重荷)
純資産の増加に貢献する「投資」の要素
自宅の評価方法:資産計上と純資産への影響
5. 純資産を最大化するための戦略:負債の効率化
戦略1:悪い負債(高金利)の最優先排除
戦略2:良い負債(低金利)を活用した資産の取得
負債の繰り上げ返済が純資産に与える即効性
負債の借り換えによる金利コストの削減
6. 純資産を最大化するための戦略:収入と支出の最適化
収入と支出の差額(キャッシュフロー)を純資産に回す
支出の削減(節約)が純資産の成長に与える影響
収益性の高い資産(株式・投資信託)への優先配分
毎月の自動積立(先取り投資)による確実な純資産増強
7. ライフステージごとの純資産目標と変動要因
初期(若年期):負債解消と純資産のプラス化が最優先
成長期(壮年期):資産の増加と住宅ローン残高のバランス
老後(引退期):純資産の取り崩し計画とリスク管理
【図】ライフステージごとの純資産の理想的な成長曲線
8. 純資産の成長を阻害するリスクと対策
リスク1:インフレと純資産の実質的価値の低下
リスク2:予期せぬ支出(病気、災害)による資産の毀損
リスク3:金融市場の暴落と純資産の変動
資産・負債リスクの分散による純資産保全戦略
9. 純資産の継続的な管理と行動計画
純資産を追跡(トラッキング)するツールと頻度(年次/月次)
純資産を目標達成のために「リバランス」する重要性
人的資本(労働力)を資産として捉え、純資産を増やす視点
純資産管理がもたらす精神的な安定と行動の変化
10. まとめ:純資産を把握し、未来の選択肢を広げる
純資産は単なる数字ではなく、未来の「選択肢の数」である
資産の健全性を保ち、負債をコントロールする習慣の重要性
明日から始める純資産向上のための具体的なアクション
導入:純資産を把握し、家計の真の健全性を測る
資産形成を考える際、多くの人は銀行預金や保有する株式の残高といった「資産」の合計額に注目しがちです。しかし、ファイナンシャルプランニング(FP)において、家計の真の経済状態と健全性を示す指標は、**純資産(Net Worth)**に他なりません。
純資産とは、現在持っているすべての資産から、すべての負債を差し引いた、正味の財産です。この数字を把握せずして、適切な資産形成戦略は立てられません。
本パートでは、純資産の基本的な定義、計算方法、そして純資産がマイナスとなる「債務超過」の危険性について、その基礎を徹底的に解説します。
1. 純資産(Net Worth)の基本的な定義と家計における重要性
純資産とは何か?FPにおける核心的な定義
**純資産(Net Worth)とは、家計の資産(Assets)から、すべての負債(Liabilities)**を差し引いた、最終的に手元に残る財産の価値を指します。
これは、もし今日、あなたのすべての資産(預金、不動産、投資信託など)を売却し、すべての負債(住宅ローン、奨学金、リボ払いなど)を返済し終えた場合に、正味でいくら残るかを示すものです。
純資産が「家計の健全性」を示す唯一の指標である理由
資産総額が1億円であっても、負債総額が9,000万円であれば、純資産は1,000万円です。一方、資産総額が1,000万円でも、負債がゼロであれば、純資産も1,000万円です。
この例からわかるように、純資産は、**「見せかけの資産」ではなく、「家計が自由に使える正味の財産」**を表します。そのため、純資産こそが、家計の真の経済的な安定度、すなわち「健全性」を示す唯一の指標としてFPでは重視されます。
資産(Assets)と負債(Liabilities)が純資産に与える影響
純資産は、常に資産と負債のバランスによって決定されます。
- 資産の役割: 純資産を増やす要因です。特に、価値が時間とともに増大する収益性のある資産(投資資産など)の割合が高いほど、純資産は加速して成長します。
- 負債の役割: 純資産を減らす要因です。ただし、住宅ローンなど低金利の「良い負債」は、資産を取得するための**レバレッジ(てこ)**として機能し、結果的に純資産の増加に貢献することもあります。
純資産を増やすことと、経済的自由(FIRE)の達成の関係
**経済的自由(FIRE:Financial Independence, Retire Early)**とは、生活費をすべて資産が生み出す収益(インカムゲイン)で賄える状態を指します。
- 達成基準: 一般的に、年間支出の25倍の純資産(投資元本)を築くことが、FIRE達成の目安とされます。
- 純資産=元本: つまり、純資産を増やし、それを投資に回すことこそが、経済的自由への直接的なルートとなります。
2. 純資産の計算方法とバランスシートの構造
純資産の算出公式と具体例
純資産は、以下の極めてシンプルな公式で算出されます。
純資産の計算式:
純資産 = 資産総額 – 負債総額
【計算例】
| 項目 | 金額 | 分類 |
| 銀行預金 | 500万円 | 資産 |
| 投資信託 | 1,000万円 | 資産 |
| 自宅の時価 | 4,000万円 | 資産 |
| 資産総額 | 5,500万円 | |
| 住宅ローン残高 | 3,000万円 | 負債 |
| クレジットカード残高 | 50万円 | 負債 |
| 負債総額 | 3,050万円 | |
| 純資産 | 2,450万円 (5,500万円 – 3,050万円) |
家計のバランスシート(資産負債一覧表)の作成手順
この計算プロセスを一覧にしたものが、**家計のバランスシート(B/S)**です。企業の財務諸表を家計に適用したもので、家計の特定時点での財政状態をスナップショットのように示します。
- 資産の洗い出し: 現金、預金、投資、不動産など、すべてのプラスの財産をリストアップします。
- 負債の洗い出し: ローン、未払い金、クレジットカード残高など、すべてのマイナスの義務をリストアップします。
- 純資産の算出: 資産総額から負債総額を差し引き、純資産額を算出します。
資産と負債の評価:時価と簿価の使い分け
バランスシート作成時、資産と負債の評価方法には注意が必要です。
- 原則:時価評価: 純資産を正確に把握するため、資産と負債は、**現在の市場価値(時価)**で評価すべきです。
- 例: 株式は現在の株価、不動産は現在の売却想定価格(簡易査定額)を用います。
- 簿価(取得時の価格): 簿価は過去のデータであり、現在の純資産額とは関係ありません。特に不動産など、市場価値が大きく変動する資産では、必ず時価で評価してください。
【表】簡略化した家計のバランスシート例
バランスシートは、「資産の部」の合計が「負債・純資産の部」の合計と必ず一致するよう設計されています。
| 資産の部(左側) | 負債・純資産の部(右側) |
| 流動資産(預金、現金) | 負債(住宅ローン、カーローン) |
| 固定資産(不動産、株式) | 純資産(純粋な自己資本) |
| 資産総額 | 負債総額+純資産額 |
3. 純資産の評価:債務超過と健全性の判断基準
純資産額が算出できたら、その数字が家計にとって何を意味するのかを評価します。特に注意すべきは「債務超過」の状態です。
債務超過とは何か?純資産がマイナスとなる状態
債務超過とは、負債総額が資産総額を上回っている状態、すなわち純資産がマイナスになっている状態を指します。
- 意味: すべての資産を売却しても、すべての借金を返済しきれない状態です。
- 原因: 収入に対して過大な負債(高額な住宅ローン、または悪い負債)を抱えたり、資産価値の急激な下落(例:購入した不動産の暴落)によって発生します。
債務超過がもたらす家計の2つのリスク(信用、精神)
債務超過の状態は、単なる数字上の問題に留まりません。
- 信用リスク: 新たな借り入れ(例えば、子どもの教育ローン)の審査が極めて厳しくなります。また、現在のローン契約の継続にも影響を及ぼす可能性があります。
- 精神的リスク: 経済的なプレッシャーが常にのしかかり、家計管理や日常生活の判断に悪影響を与えます。
純資産がゼロの状態(±0)の持つ意味
純資産がちょうどゼロ(資産総額=負債総額)である状態も、健全とは言えません。
- 意味: わずかな資産価値の下落や、予期せぬ小さな支出によって、すぐに債務超過に転落するリスクを抱えているからです。
- 目標設定: 純資産の目標は、必ず「大きなプラス」に設定し、予備資金(エマージェンシーファンド)として流動資産で保有することが推奨されます。
健全な家計の純資産比率と適正水準
家計の健全性は、**純資産比率(資産総額に占める純資産の割合)**によって評価できます。
- 計算式: 純資産比率 = 純資産総額 ÷ 資産総額 × 100
- 適正水準:
- 若い家計: 住宅ローンを組むまでは、負債がないため100%に近い水準が理想です。
- 住宅ローン保有家計: ローン開始直後は比率が下がりますが、負債を返済し、資産を増やすにつれて50%以上を目指すのが健全性の目安となります。比率が高いほど、外部環境の変化に強い家計と言えます。
4. 純資産を構成する主要な資産と負債の分類
純資産を効果的に成長させるには、その構成要素である資産と負債を、単に金額としてではなく、性質で理解することが重要です。
資産側の要素:流動資産と固定資産のバランス
資産は、その**流動性(現金化しやすさ)**によって分類され、純資産の安定性に影響します。
- 流動資産: 現金、預金、すぐに売却できる投資信託など。緊急時の支出に対応するための資産であり、純資産が急激に毀損するのを防ぐ防波堤の役割を果たします。
- 固定資産: 不動産、退職金など、売却に時間や手間がかかる資産。これらの価値は、純資産の成長に大きく寄与しますが、急な出費には対応できません。
- 対策: 純資産のポートフォリオは、生活費の3〜6ヶ月分を流動資産で確保し、残りを固定資産(特に収益性の高い投資資産)に振り分けるバランスを目指すべきです。
負債側の要素:良い負債(レバレッジ)と悪い負債(重荷)
負債を純資産の計算式で扱う際には、その金利と目的を考慮する必要があります。
- 良い負債: 資産の価値を高めるために使われる負債(例:低金利の住宅ローン)。これらは、自己資金を温存しつつ資産を取得する**レバレッジ(てこ)**として機能し、純資産の増加を間接的に助けます。
- 悪い負債: 消費や浪費に使われる負債(例:高金利のリボ払い)。これは純資産の重荷となり、発生する利息が純資産を急速に蝕みます。
純資産の増加に貢献する「投資」の要素
純資産の成長を加速させる最大の要因は、収益性の高い投資資産の保有です。
- 複利効果: 投資資産は、得られた収益が元本に組み込まれて再投資されることで、利息が利息を生む複利効果を発揮します。この効果は、長期になるほど純資産の増加に劇的な影響を与えます。
- 非課税制度の活用: NISAやiDeCoといった非課税制度を活用することで、税金で失われるはずだった資金を再投資に回し、純資産の成長速度をさらに高めることができます。
自宅の評価方法:資産計上と純資産への影響
居住用の自宅(マイホーム)は、資産として計上すべきですが、その評価には議論があります。
- FP上の計上: 資産として時価(現在の売却想定価格)で計上し、同時に住宅ローン残高を負債として計上するのが一般的です。
- 純資産への影響: 自宅の時価がローン残高を上回れば、その差額が純資産に貢献します。ただし、自宅は収益を生まず、すぐに現金化できないため、流動資産として過大評価してはいけません。
5. 純資産を最大化するための戦略:負債の効率化
純資産を増やすための最も確実な方法は、負債を効率化し、純資産をマイナスに押し下げる力を抑え込むことです。
戦略1:悪い負債(高金利)の最優先排除
リボ払いやカードローンなど、年率10%を超えるような高金利の悪い負債は、純資産形成の最大の障害です。
- 確実なリターン: 15%の金利を払っている負債を返済することは、確実な年率15%のリターンを得るのと同じ効果があります。これは、投資で得られる平均的なリターン(年5〜7%)よりも遥かに高いため、最優先で資産を充てるべきです。
戦略2:良い負債(低金利)を活用した資産の取得
住宅ローンなど、金利が低く(例:年1%未満)、かつ資産形成に繋がる負債は、全額を早期に返済するのではなく、資金を手元に残す戦略も有効です。
- 資金の差分活用: ローン金利よりも高いリターン(例:年5%)を投資で得られる見込みがある場合、その金利差を利用して投資を続けることで、長期的に純資産を増やすことができます。
負債の繰り上げ返済が純資産に与える即効性
繰り上げ返済は、利息負担という負債の総額を直接的に減らすため、その実行と同時に純資産を増やす効果があります。
- 仕組み: 繰り上げ返済額は、負債から差し引かれるため、純資産 = 資産 – **(負債 – 繰り上げ返済額)**となり、即座に純資産が増加します。
- 優先順位: ただし、必ず緊急予備資金(生活費の3〜6ヶ月分)を確保した上で、繰り越し返済を実行してください。
負債の借り換えによる金利コストの削減
低金利の時代や、自身の信用力が向上した際には、既存の負債を借り換えることで金利コストを削減し、純資産の増加に貢献できます。
- 影響: 借り換えにより支払う利息総額が減ることで、長期的に見て負債総額が減少し、純資産が増加します。特に住宅ローンの借り換えは、数百万円単位の純資産改善に繋がる可能性があります。
6. 純資産を最大化するための戦略:収入と支出の最適化
純資産の成長は、資産と負債の管理だけでなく、家計のキャッシュフロー(CF)、すなわち「収入 – 支出」のバランスに依存します。
収入と支出の差額(キャッシュフロー)を純資産に回す
毎月の収入と支出の差額(黒字額)こそが、純資産を積み上げるための新規資金となります。
- 目標: この差額を最大化し、その全額を投資資産として純資産に組み込むことが、純資産最大化の基本戦略です。
支出の削減(節約)が純資産の成長に与える影響
支出の削減は、収入を増やすよりも即効性が高く、純資産の成長に二重の効果をもたらします。
- 効果1(CF増): 支出が減った分、毎月のCFが増え、純資産への新規資金が増加します。
- 効果2(目標額減): 支出が恒常的に減ることで、将来の**経済的自由(FIRE)**達成に必要な純資産の目標額自体が低くなり、達成難易度が下がります。
収益性の高い資産(株式・投資信託)への優先配分
CFで確保した新規資金は、単なる預貯金(低リターン)として純資産に組み込むのではなく、収益性の高い資産へ優先的に配分すべきです。
- 役割: 投資資産は、純資産を構成する要素としてだけでなく、新たなキャッシュフローを生み出し、その後の純資産の成長を加速させる役割を果たします。
毎月の自動積立(先取り投資)による確実な純資産増強
人間の意志の力は不安定です。純資産の成長を確実にするには、仕組み化が不可欠です。
- 先取りの原則: 給与が入ったら、生活費を払う前に、**まず投資資金を別口座へ自動で振り替える(先取り貯蓄・投資)**ルールを確立します。
- 効果: 「残ったお金で生活する」という意識に変わることで、無駄な支出が抑えられ、純資産の増加が習慣化します。
7. ライフステージごとの純資産目標と変動要因
純資産は固定されたものではなく、人生の大きな出来事(ライフイベント)によって常に変動します。純資産管理においては、ライフステージに合わせた目標設定と、変動の要因を理解することが重要です。
初期(若年期):負債解消と純資産のプラス化が最優先
キャリアをスタートさせたばかりの若年期は、奨学金や自動車ローンといった負債を抱えていることが多く、純資産がマイナス(債務超過)になっているケースも少なくありません。
- 最優先目標: 高金利の悪い負債を早期に解消し、純資産を確実にプラスにすること。
- 変動要因: 収入の増加(人的資本の成熟)、そして積極的な少額投資の開始。
成長期(壮年期):資産の増加と住宅ローン残高のバランス
収入が増加し、家庭を持ち、住宅ローン(負債)を組むことが多いのがこの時期です。負債総額は最大になりますが、同時に資産形成のスピードも最大化します。
- 目標: 住宅ローン残高の減少ペース以上に、投資資産(金融資産)の成長を加速させ、純資産を力強く成長させること。
- 変動要因: 住宅ローンという大きな負債の発生、教育資金などの支出、投資リターンの変動。
老後(引退期):純資産の取り崩し計画とリスク管理
労働収入が途絶え、純資産を生活費として活用するフェーズです。負債はゼロになっているのが理想です。
- 目標: 寿命が尽きるまで、純資産がゼロにならないよう、安全かつ効率的な取り崩し率(例:年間4%ルール)を設定し、リスクを低く抑えること。
- 変動要因: 年金収入、病気や介護にかかる予期せぬ医療費、インフレ。
【図】ライフステージごとの純資産の理想的な成長曲線
ライフステージ別:純資産の理想成長モデル(目安)
純資産=貯蓄 + 投資 − 借金(住宅ローン除く)
① 20代:基礎形成期
| 年齢 | 理想純資産 | 目標の指標 |
|---|---|---|
| 22〜25歳 | 0〜50万円 | 就職〜初期の貯蓄形成 |
| 26〜29歳 | 50〜200万円 | 生活防衛資金(3〜6ヶ月)+積立投資開始 |
ポイント:支出管理習慣の確立・固定費最適化・少額でも積立NISA開始。
② 30代:成長加速期
| 年齢 | 理想純資産 | 目標の指標 |
|---|---|---|
| 30〜34歳 | 200〜500万円 | 可処分所得が増え、投資比率を高めたい時期 |
| 35〜39歳 | 500〜1,000万円 | 家庭形成・教育費開始。リスクを抑えつつ積み立て継続 |
ポイント:投資割合15〜20%が理想。住宅ローンは返済負担率25%以内。
③ 40代:安定資産形成期(勝負の10年)
| 年齢 | 理想純資産 | 目標の指標 |
|---|---|---|
| 40〜44歳 | 1,000〜1,800万円 | 教育費ピーク前。運用資産の存在感が出る |
| 45〜49歳 | 1,800〜3,000万円 | 運用益が年間20〜50万以上になる状態 |
ポイント:この時期に“投資を止めない”ことが資産差の分岐点。
④ 50代:資産仕上げ期
| 年齢 | 理想純資産 | 目標の指標 |
|---|---|---|
| 50〜54歳 | 3,000〜4,500万円 | 老後資産の土台完成 |
| 55〜59歳 | 4,500〜6,000万円 | 退職金+運用益で最終調整 |
ポイント:リスク資産を徐々に減らし、守りの運用(債券・現金30〜50%)。
⑤ 60代:リタイア前後(資産維持期)
| 年齢 | 理想純資産 | 目標の指標 |
|---|---|---|
| 60〜64歳 | 5,000〜7,000万円 | 年金受給前後の生活資金と運用資産を明確に分ける |
| 65歳〜 | 4,000〜6,000万円維持 | 年金+取り崩しで可処分資金を確保 |
ポイント:年間取り崩しは「4%ルール」が目安(過度に使いすぎない)。
理想的な純資産の成長曲線(イメージ)
言葉で表すと以下のようなカーブになります:
- 20代:ほぼ水平(低空)
- 30代:ゆるやかな上昇
- 40代:急上昇(最も伸びる) ←資産形成の“黄金期”
- 50代:緩やかに上昇しながらピークへ
- 60代:横ばい〜ゆっくり減少(守る時期)
8. 純資産の成長を阻害するリスクと対策
純資産の成長を脅かす外部要因は常に存在します。これらのリスクを理解し、あらかじめ対策を講じることが、純資産を守るために不可欠です。
リスク1:インフレと純資産の実質的価値の低下
**インフレーション(物価上昇)**が起こると、純資産の額面は変わらなくても、そのお金で買えるものの量(購買力)は低下します。
- 対策: 現金や預金といった低リターン資産の割合を抑え、インフレに強い株式や不動産といった実質的な価値を保てる資産を純資産の主要部分に組み込むこと。
リスク2:予期せぬ支出(病気、災害)による資産の毀損
病気や自然災害、失業といった予期せぬ出来事は、一度に多額の支出を発生させ、純資産から資産を直接引き落とします。
- 対策: リスクに備えた緊急予備資金を流動資産として確保すること。また、医療保険や火災保険といった保険を利用し、巨額な損失を純資産から切り離すこと。
リスク3:金融市場の暴落と純資産の変動
純資産に占める投資資産の割合が高いほど、金融市場の暴落時には純資産額が大きく減少します。
- 対策: 国際分散投資(地域リスクの分散)と時間分散(積立投資)を徹底し、単一のリスクに依存しないポートフォリオを構築すること。短期的な変動に惑わされず、長期視点を貫くことが重要です。
9. 純資産の継続的な管理と行動計画
純資産は「計算して終わり」ではなく、継続的な測定と改善が必須です。この習慣が、資産形成を成功に導く土台となります。
純資産を追跡(トラッキング)するツールと頻度(年次/月次)
純資産を定期的にチェックすることで、家計の改善点が見えてきます。
- ツール: Excelなどのスプレッドシートや、連携機能を持つ家計簿アプリを利用して、資産と負債の最新の時価を記録します。
- 頻度: 少なくとも年次(確定申告や年末など)で全体を把握し、月次でキャッシュフローと負債の状況を確認するのが理想的です。
純資産を目標達成のために「リバランス」する重要性
市場の変動によって、当初定めた理想的な資産配分の比率(例:株式70%:債券30%)が崩れることがあります。
- リバランス: 崩れた資産配分を元の比率に戻すための売買を行うことです。これにより、過大になったリスクを抑え、純資産の成長軌道を維持できます。
人的資本(労働力)を資産として捉え、純資産を増やす視点
特に若年層において、将来の労働収入能力である人的資本は、最大の資産です。
- 自己投資: スキルアップや資格取得といった自己投資は、将来の収入(キャッシュフロー)を増やすことにつながり、結果として純資産の増加に最も貢献する可能性があります。
10. まとめ:純資産を把握し、未来の選択肢を広げる
純資産は単なる数字ではなく、未来の「選択肢の数」である
純資産額が増加するということは、緊急時の対応力が高まるだけでなく、転職、早期退職、起業、教育、趣味といった人生の選択肢が増えることを意味します。純資産は、自由と安心を買うための経済的な土台です。
資産の健全性を保ち、負債をコントロールする習慣の重要性
資産形成の成功は、複雑な金融商品を使いこなすことではなく、純資産の計算とモニタリングという、シンプルで継続的な習慣にかかっています。
明日から始める純資産向上のための具体的なアクション
- 計算: すべての資産と負債を洗い出し、現在の純資産を計算する。
- 目標設定: ライフプランに基づき、5年後の純資産目標を設定する。
- 改善: 計算結果に基づき、高金利の悪い負債を解消するアクションを最優先で開始する。
純資産を定期的にチェックし、コントロールする能力こそが、経済的な豊かさの源泉となります。

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