記事アウトライン(目次)
- 1. エンベデッド・ファイナンス(組込型金融)の本質と背景
- 2. エンベデッド・ファイナンスを支える「BaaS(Banking as a Service)」の仕組み
- 3. エンベデッド・ファイナンスの4つの主要カテゴリー
- 4. 2026年最新事例:グローバル企業と日本企業の戦略
- 5. 投資家視点でのメリット:企業価値(バリュエーション)への影響
- 6. リスクと課題:金融の「組み込み」に潜むリスク
- 7. 注目銘柄と関連市場の分析:投資のチャンスをどこに見出すか
- 8. 未来予測:2030年に向けた「全産業の金融化」の結末
- 1. エンベデッド・ファイナンス(組込型金融)の本質と背景
- 2. エンベデッド・ファイナンスを支える「BaaS(Banking as a Service)」の仕組み
- 3. エンベデッド・ファイナンスの4つの主要カテゴリー
- 4. 2026年最新事例:グローバル企業と日本企業の戦略
- 5. 投資家視点でのメリット:企業価値(バリュエーション)への影響
- 6. リスクと課題:金融の「組み込み」に潜むリスク
- 7. 注目銘柄と関連市場の分析:投資のチャンスをどこに見出すか
- 8. 未来予測:2030年に向けた「全産業の金融化」の結末
1. エンベデッド・ファイナンス(組込型金融)の本質と背景
1.1 「どこでも銀行」時代の到来:定義とコンセプト
1.2 金融が「サービス」から「機能」へと変化した理由
1.3 なぜ今、非金融企業がこぞって金融業に参入するのか
1.4 API経済がもたらした技術的ブレイクスルー
1.5 2026年現在の市場規模と「7兆ドル」の衝撃予測
2. エンベデッド・ファイナンスを支える「BaaS(Banking as a Service)」の仕組み
2.1 伝統的銀行とフィンテックを繋ぐ「BaaS」の役割
2.2 ライセンス供与・コンプライアンス・API接続の3層構造
2.3 【図解】従来の銀行取引 vs エンベデッド・ファイナンスのフロー
2.4 ホワイトレーベル型金融商品の台頭
2.5 銀行が「黒子」に徹することで得られる新たな収益モデル
3. エンベデッド・ファイナンスの4つの主要カテゴリー
3.1 組込型決済(Embedded Payments):決済の不可視化
3.2 組込型融資(Embedded Lending):BNPL(後払い)のその先へ
3.3 組込型保険(Embedded Insurance):購入時に1クリックで加入
3.4 組込型投資(Embedded Wealth):購買体験と資産運用の融合
3.5 各カテゴリーの具体的事例とユーザー体験の変化
| カテゴリー | 代表的なサービス例 | ユーザーのメリット |
| 決済 | Uber, Starbucks | 支払い操作のストレスゼロ |
| 融資 | Amazon(ビジネスローン) | 資金調達の即時性と低ハードル |
| 保険 | 航空券購入時の遅延補償 | 面倒な手続きなしでリスク回避 |
| 投資 | ポイント運用の自動化 | 投資の心理的障壁の払拭 |
4. 2026年最新事例:グローバル企業と日本企業の戦略
4.1 Appleの金融圏拡大:Apple Payから独自の預金・カードまで
4.2 トヨタ等の製造業が仕掛ける「モビリティ×金融」の融合
4.3 SaaS企業によるB2Bエンベデッド・ファイナンス(決済・融資一体型)
4.4 スーパーアプリ化する小売・流通大手のプラットフォーム戦略
4.5 日本における法規制の緩和と銀行法改正の影響
5. 投資家視点でのメリット:企業価値(バリュエーション)への影響
5.1 LTV(顧客生涯価値)の劇的な向上と解約率の低下
5.2 金融サービスによる高収益(ハイマージン)な収益源の追加
5.3 膨大な決済・属性データによる「信用スコアリング」の進化
5.4 既存ビジネスの「キャッシュフロー」を金融で最大化する手法
5.5 【図解】金融機能を持つプラットフォーム企業の収益構造の変化
6. リスクと課題:金融の「組み込み」に潜むリスク
6.1 コンプライアンスとKYC(本人確認)の責任所在
6.2 サイバーセキュリティと顧客データ保護の重要性
6.3 銀行側のシステミック・リスクとパートナーシップの脆弱性
6.4 「影の銀行(シャドー・バンキング)」化への懸念と規制の強化
6.5 ユーザー体験の複雑化による「意図しない負債」のリスク
7. 注目銘柄と関連市場の分析:投資のチャンスをどこに見出すか
7.1 BaaSプラットフォームを提供するテクノロジー企業(Stripe, Marqeta等)
7.2 デジタル化をリードする伝統的金融機関の逆襲
7.3 インフラを提供するクラウド・プロバイダーの役割
7.4 【比較表】主要フィンテック・プラットフォームの強みと弱み
| 企業名 | 主な提供機能 | ターゲット層 | 特徴 |
| A社 | カード発行・決済 | スタートアップ | 柔軟なカスタマイズ性 |
| B社 | 銀行機能全般 | 中堅〜大企業 | 高い信頼性と法令遵守 |
| C社 | BNPL・分割払い | 小売業 | 高い購買転換率 |
8. 未来予測:2030年に向けた「全産業の金融化」の結末
8.1 銀行の店舗が消える?生活動線に溶け込む金融
8.2 AIとエンベデッド・ファイナンスが実現する「自律型金融」
8.3 業種間の壁が消滅する「コンバージェンス(融合)」の加速
8.4 最後に:投資家が持つべき「金融機能を持つ非金融企業」への評価軸
1. エンベデッド・ファイナンス(組込型金融)の本質と背景
「銀行機能は必要だが、銀行という場所は必要ない」――かつてビル・ゲイツが残した言葉が、2026年の今、まさに現実のものとなっています。その中心にあるのが「エンベデッド・ファイナンス」です。
1.1 「どこでも銀行」時代の到来:定義とコンセプト
エンベデッド・ファイナンス(Embedded Finance:組込型金融)とは、非金融企業が自社のサービスやアプリの中に、銀行、決済、融資、保険などの金融機能をシームレスに組み込むことを指します。
- かつての体験: 車を買うために銀行へ行きローンを組み、保険会社に電話をして契約する。
- エンベデッド・ファイナンスの体験: 車をスマホで選ぶ際、そのアプリ内でローン審査が数秒で完了し、購入ボタンを押した瞬間に保険加入も完結する。
ユーザーが「今、金融サービスを使っている」と意識することなく、生活動線の中で自然に金融機能が提供されるのが本質です。
1.2 金融が「サービス」から「機能」へと変化した理由
これまで金融は、特定の免許を持つ「銀行」というハブを通じてのみ提供される「完成されたサービス」でした。しかし、デジタル化により、金融はソフトウェアの「1つのパーツ(機能)」へと解体されました。
この変化を後押ししたのが、顧客接点の移動です。人々はもはや銀行の窓口ではなく、Amazon、Uber、SaaSツールといったプラットフォーム上で大半の時間を過ごしています。その接点に金融を埋め込む方が、顧客利便性もビジネスの効率も圧倒的に高いというパラダイムシフトが起きたのです。
1.3 なぜ今、非金融企業がこぞって金融業に参入するのか
非金融企業(小売、テック企業、製造業など)にとって、金融機能を組み込む動機は非常に明確です。
- 顧客満足度の向上: 外部サービスへの離脱を防ぎ、ワンストップで体験を完結させる。
- 収益源の多様化: 商品の販売利益に加え、決済手数料や利息収入といった「金融マージン」を獲得できる。
- 深い顧客データの獲得: 購買履歴だけでなく「お金の流れ」を把握することで、より精度の高いマーケティングや与信(信用付与)が可能になる。
1.4 API経済がもたらした技術的ブレイクスルー
この変革を可能にしたのが、**API(Application Programming Interface)**技術の進化です。銀行の基幹システムと外部のアプリを安全かつ容易に接続できる「オープンバンキング」の仕組みが整ったことで、非金融企業は数行のコードを書くだけで、自社アプリに「銀行口座開設ボタン」や「後払い決済機能」を実装できるようになりました。
1.5 2026年現在の市場規模と「7兆ドル」の衝撃予測
米ベイン・アンド・カンパニー等の予測によれば、エンベデッド・ファイナンスを通じた取引額は2026年までに世界で**7兆ドル(約1,000兆円超)**に達するとされています。これは、金融取引の主戦場が「銀行の店舗」から「デジタルのプラットフォーム」へ完全に移行することを意味しており、投資家が企業の将来性を測る上で避けて通れない指標となっています。
2. エンベデッド・ファイナンスを支える「BaaS(Banking as a Service)」の仕組み
組込型金融という魔法を実現している舞台裏の技術、それが「BaaS(バース)」です。
2.1 伝統的銀行とフィンテックを繋ぐ「BaaS」の役割
BaaS(Banking as a Service)とは、銀行が持つ免許やインフラを、APIを通じてクラウド上の「サービス」として提供する仕組みです。
- 銀行: 免許、法令遵守、基幹システム(預金管理など)を提供。
- BaaSプロバイダー: 銀行と企業を繋ぐプラットフォーム(中間層)を提供。
- 非金融企業: 自社のブランドで金融サービスをユーザーに提供。
2.2 ライセンス供与・コンプライアンス・API接続の3層構造
BaaSの構造は、大きく以下の3層に分かれます。
- ライセンス層: 銀行法に基づく預金受け入れや融資の認可。
- オペレーション層: 本人確認(KYC)、アンチマネーロンダリング(AML)といった複雑なコンプライアンス処理。
- テクノロジー層: 企業のアプリとリアルタイムでデータをやり取りするAPIインターフェース。
2.3 【図解】従来の銀行取引 vs エンベデッド・ファイナンスのフロー
従来のモデルでは、顧客が能動的に銀行へアクセスしていましたが、新モデルではプラットフォームが「顔」となり、銀行は背後の「インフラ(黒子)」に徹します。
2.4 ホワイトレーベル型金融商品の台頭
BaaSにより、「ホワイトレーベル型」の金融商品が増えています。これは、中身は大手銀行のシステムを使いながら、見た目は「Apple」や「Starbucks」といった企業のブランドを冠したカードや口座のことです。ユーザーは信頼するブランドを通じて、銀行と同等の安全な金融サービスを享受できます。
2.5 銀行が「黒子」に徹することで得られる新たな収益モデル
銀行側にとっても、BaaS提供は大きなメリットがあります。自ら集客(マーケティング)を行うコストをかけることなく、パートナー企業の膨大な顧客基盤から「手数料収入」を得られるからです。低金利時代に苦しんできた伝統的銀行にとって、BaaSは高収益なITプラットフォーム企業へと脱皮するチャンスとなっています。
3. エンベデッド・ファイナンスの4つの主要カテゴリー
エンベデッド・ファイナンスは、提供される金融機能によって大きく4つの領域に分類されます。それぞれの進化が、ユーザー体験を「面倒な手続き」から「意識させない日常」へと変貌させています。
3.1 組込型決済(Embedded Payments):決済の不可視化
決済は最も普及しているカテゴリーであり、今や「支払う」という行為そのものが消えつつあります。
- 仕組み: アプリ内にクレジットカード情報やデポジット機能を埋め込み、サービス利用と同時に自動決済されます。
- 進化: 単なるカード決済から、スターバックスのように独自のデジタル通貨(プリペイド)を運用する形態へ進化。企業は決済手数料を削減しつつ、膨大なキャッシュフローと購買データを一手に掌握します。
3.2 組込型融資(Embedded Lending):BNPL(後払い)のその先へ
必要なその瞬間に、その場で資金を借りる仕組みです。
- BNPLの高度化: 「Buy Now, Pay Later」は、今やB2Cだけでなく、B2B(企業間取引)の仕入れにも組み込まれています。
- 即時審査: プラットフォーム上の取引データ(売上推移や顧客評価)を元にAIが審査するため、従来の銀行融資では数週間かかった審査が数秒で完了します。
3.3 組込型保険(Embedded Insurance):購入時に1クリックで加入
「もしも」の備えが、対象物の購入導線に統合されています。
- コンテキスト重視: 航空券を買う時の遅延補償、スマホを買う時の修理保証、あるいはシェアサイクルを利用する数時間だけ加入する損害保険など。
- メリット: 保険会社にとっては「必要としている瞬間の顧客」に直接アプローチできるため、獲得コストを大幅に抑えられます。
3.4 組込型投資(Embedded Wealth):購買体験と資産運用の融合
投資を特別なことではなく、消費の延長線上に位置づけます。
- お釣り投資・ポイント投資: 買い物で発生した端数やポイントを、自動的にETFやビットコインに積み立てる機能です。
- 目的別運用: 旅行予約サイトで「次回の旅行費用」を自動で運用に回すなど、ライフイベントに紐づいた投資体験が提供されています。
3.5 各カテゴリーの具体的事例とユーザー体験の変化
| カテゴリー | 代表的なサービス例 | ユーザー体験の変化 |
| 決済 | Uber, Apple Pay | 財布を出す動作がなくなり、目的地に着けば終了 |
| 融資 | Amazon 出品者ローン | 運転資金の調達が、管理画面上の1クリックで完結 |
| 保険 | Tesla 保険 | 走行データ(安全性)に基づき、月々の保険料が変動 |
| 投資 | Moneyforward | 家計管理の延長で、資産の最適化アドバイスを受ける |
4. 2026年最新事例:グローバル企業と日本企業の戦略
2026年、エンベデッド・ファイナンスは「実験」のフェーズを終え、巨大企業の「本業を支える柱」へと成長しました。
4.1 Appleの金融圏拡大:Apple Payから独自の預金・カードまで
Appleは世界で最も成功しているエンベデッド・ファイナンス企業の一つです。
- Appleの戦略: iPhoneというハードウェアをゲートウェイにし、Apple Card(クレジットカード)、Apple Pay Later(後払い)、そして高利回りのApple Savings(預金口座)を統合。
- 銀行への影響: 提携先のゴールドマン・サックス等のインフラを使いつつ、顧客との接点は完全にAppleが独占。「Apple経済圏」に資金を囲い込むことで、エコシステムの離脱率(チャーンレート)を極限まで下げています。
4.2 トヨタ等の製造業が仕掛ける「モビリティ×金融」の融合
製造業、特に自動車業界では「移動の金融化」が進んでいます。
- MaaSとの連携: 車を売るのではなく、移動距離に応じた課金(サブスクリプション)を金融機能で支えます。トヨタファイナンスなどを通じ、給油、駐車場、メンテナンスの決済を一元化し、さらには車載データを用いた「安全運転割引保険」などをシームレスに提供しています。
4.3 SaaS企業によるB2Bエンベデッド・ファイナンス(決済・融資一体型)
法人向けソフトウェア(SaaS)が、金融機関の役割を代替し始めています。
- 具体例: 飲食店向けのレジアプリ(ShopifyやSquareなど)が、その店舗の売上データから将来の収益を予測し、銀行より先に運転資金を融資します。
- 優位性: SaaS企業は顧客の「財布の中身(キャッシュフロー)」をリアルタイムで把握しているため、銀行よりも貸し倒れリスクを正確に判定できるのが強みです。
4.4 スーパーアプリ化する小売・流通大手のプラットフォーム戦略
日本のセブン&アイやイオンなどの流通大手も、BaaSを活用して金融機能を内製化しています。
- 戦略: 自社のアプリ内に銀行(セブン銀行等)の機能を深く埋め込み、クーポン配布と決済、さらには個人の購買履歴に基づいた少額ローンを提供。これにより、店舗への来店頻度を高め、ポイント経済圏を強固なものにしています。
4.5 日本における法規制の緩和と銀行法改正の影響
日本でも「金融サービス仲介業」の創設や銀行法改正により、非金融企業が金融を扱いやすい環境が整いました。
- 現状: 2026年現在、多くの銀行がAPIを開放し、スタートアップから大企業までが「金融のパーツ化」を利用できるようになっています。この規制緩和が、日本独特の「ポイント経済圏」と融合し、世界でも稀な進化を遂げています。
5. 投資家視点でのメリット:企業価値(バリュエーション)への影響
投資家がエンベデッド・ファイナンスを導入する企業を評価する際、もはや「決済ができる」という表面的な機能ではなく、それが**「ユニットエコノミクス(1顧客あたりの採算性)」**をいかに劇的に改善しているかに注目しています。
5.1 LTV(顧客生涯価値)の劇的な向上と解約率の低下
マッキンゼーの最新レポート(2025-2026)によると、金融機能を組み込んだ企業は、そうでない企業に比べてLTVが2〜5倍向上し、顧客獲得コスト(CAC)が30%低下する傾向にあります。
- スティッキネス(粘着性): 決済、融資、預金といった「インフラ」を自社サービスに組み込むことで、顧客はそのプラットフォームを離れる理由がなくなります。金融機能は「究極の顧客囲い込み策」となります。
5.2 金融サービスによる高収益(ハイマージン)な収益源の追加
SaaSや小売業は、本業の利益率が低い傾向にあります(薄利多売)。ここに金融機能を乗せることで、収益構造が激変します。
- マージンの拡大: 物販の利益に加え、分割払いの手数料、残高への利息、保険の紹介料など、追加コストをほとんどかけずに「高利益率な金融収益」をレイヤー状に重ねることができます。
5.3 膨大な決済・属性データによる「信用スコアリング」の進化
2026年、データの価値は「量」から「文脈(コンテキスト)」へ移りました。
- オルタナティブ・クレジット: 伝統的な銀行が重視する「過去の財務諸表」ではなく、SaaS上の「リアルタイムの売上推移」や「顧客の評価」をAIが分析。これにより、本来なら融資を受けられない成長企業へも正確に与信でき、貸し倒れ率を抑えつつ高い収益を実現しています。
5.4 既存ビジネスの「キャッシュフロー」を金融で最大化する手法
特にB2B分野(企業間取引)でのエンベデッド・ファイナンスは、企業の運転資金効率を最大化させます。
- キャッシュ・コンバージョン・サイクルの短縮: 請求書発行と同時に「即時ファクタリング(現金化)」機能を組み込むことで、企業の資金繰りを改善し、プラットフォーム内での再投資を加速させます。
5.5 【図解】金融機能を持つプラットフォーム企業の収益構造の変化
以下の図は、本業(コア事業)の収益が横ばいであっても、金融機能(決済・融資・保険)が積み上がることで、全体の利益率が加速度的に向上する様子を示しています。
6. リスクと課題:金融の「組み込み」に潜むリスク
「誰もが銀行になれる」時代の裏側には、高度な管理体制とコンプライアンスの責任が伴います。2026年、規制当局は「黒子」である銀行だけでなく、サービスを提供する企業側にも厳しい目を向けています。
6.1 コンプライアンスとKYC(本人確認)の責任所在
金融機能を組み込む企業は、たとえ「黒子」の銀行が処理を行っていても、ユーザーとの接点における責任を免れません。
- KYC/AMLの徹底: 本人確認(KYC)やマネーロンダリング対策(AML)に不備があれば、ブランド価値は一瞬で失墜します。2026年からは、これらを「手動」ではなく「AIによるリアルタイム・モニタリング」で常時監視することがグローバル基準(AMLA規制等)となっています。
6.2 サイバーセキュリティと顧客データ保護の重要性
金融データを扱うことは、ハッカーからの標的になるリスクを飛躍的に高めます。
- データ侵害のコスト: クレジットカード情報や口座残高データの漏洩は、巨額の賠償金だけでなく、プラットフォームの閉鎖に追い込まれる致命傷となります。高度な暗号化技術や「ゼロトラスト」モデルの実装が不可欠です。
6.3 銀行側のシステミック・リスクとパートナーシップの脆弱性
自社のサービスが提携先の「BaaS提供銀行」に依存している場合、その銀行の経営不安やシステム障害が自社サービスの停止に直結します。
- カウンターパーティ・リスク: 2023年のシリコンバレー銀行破綻のような事態に備え、2026年の先進的な企業は「複数のBaaSパートナーを持つ(マルチBaaS)」戦略をとり、リスクを分散させています。
6.4 「影の銀行(シャドー・バンキング)」化への懸念と規制の強化
銀行免許を持たない企業が実質的に銀行業務を行うことに対し、各国の中央銀行は警戒を強めています。
- 規制の波: 2026年は「金融の民主化」に対する揺り戻しとして、欧州や米国、そして日本でも、プラットフォーム企業に対する「資本準備金」の積み増しや、透明性の確保を求める新しい規制が施行される年となっています。
6.5 ユーザー体験の複雑化による「意図しない負債」のリスク
「1クリックで融資」という便利さは、ユーザーが自身の支払い能力を超えた債務を抱えやすくする側面もあります。
- 社会的責任(ESG視点): 過度なBNPL(後払い)の推奨は、消費者の自己破産を招き、企業の社会的信用を低下させるリスクがあります。2026年の投資家は、企業の「Responsible Finance(責任ある金融)」への取り組みを厳しくチェックしています。
7. 注目銘柄と関連市場の分析:投資のチャンスをどこに見出すか
エンベデッド・ファイナンスの爆発的普及に伴い、株式市場では「金融インフラを提供するテクノロジー企業」への評価が劇的に高まっています。2026年現在、特に注目すべき3つのプレイヤー層を分析します。
7.1 BaaSプラットフォームの覇者:StripeとAdyen
非金融企業が金融機能を導入する際、最も選ばれているのが「決済+BaaS」を一気通貫で提供するプラットフォーム企業です。
- Stripe(ストライプ): 2026年現在も、APIの使いやすさと「Stripe Treasury(銀行口座構築機能)」で圧倒的なシェアを誇ります。スタートアップから大企業まで、金融機能の組み込みを検討する際のデファクトスタンダードとなっています。
- Adyen(アディアン): 欧州発の決済大手。特にグローバル展開する小売・プラットフォーム企業向けに、世界中の決済・財務管理を統合する能力で高く評価されています。
7.2 カード発行・発行制御の革新:Marqeta(マルケタ)
「独自のクレジットカードやデビットカードを自社ブランドで即座に発行したい」というニーズを一手に引き受けているのがMarqetaです。
- 特徴: Uberのドライバー用カードやDoorDashの決済カードなど、特定の条件下(例:配達中のみ決済可能)でしか使えない高度な制御が可能な「ジャストインタイム(JIT)ファンディング」技術が強みです。
7.3 デジタル化をリードする伝統的金融機関の「逆襲」
テクノロジー企業に押されていた伝統的銀行の中にも、自らBaaSプロバイダーへと進化し、再評価されている銘柄があります。
- JPMorgan Chase(米): 莫大なIT投資により、自社のプラットフォームを外部に開放。
- 日本国内の動き: 2025年に上場したインフキュリオンなど、決済イネーブラーとしての役割を強める国内フィンテック企業の成長も著しく、「Embedded Finance Days 2026」などの大型イベントには非金融企業が殺到しています。
7.4 【比較表】主要フィンテック・プラットフォームの強みとターゲット
| 企業名 | 主な提供機能 | 主要ターゲット層 | 2026年の投資注目ポイント |
| Stripe | 決済・銀行口座・融資 | 全業種(特にSaaS) | エコシステム全体の「金融利益」の比率 |
| Marqeta | カード発行・決済制御 | ギグワーク・デリバリー | 新しい決済形態(デジタルID連動)の普及 |
| Affirm | BNPL(後払い) | Eコマース・小売 | 貸し倒れ率の管理とAI与信の精度 |
8. 未来予測:2030年に向けた「全産業の金融化」の結末
2026年から2030年にかけて、エンベデッド・ファイナンスはさらなる進化を遂げ、私たちの「お金」の概念そのものを書き換えていきます。
8.1 銀行の店舗が消える?生活動線に溶け込む金融
2030年には、物理的な「銀行」という意識はほぼ消滅します。冷蔵庫が賞味期限を管理して自動で発注し決済する、あるいは電力が最も安い時間にEVが自動で充電して決済するといった、**「M2M(マシン・トゥ・マシン)決済」**が日常化します。金融は空気のように、あらゆるデバイスの中に溶け込んでいきます。
8.2 AIとエンベデッド・ファイナンスが実現する「自律型金融」
Gartnerの予測によれば、2030年までに財務上の意思決定の15%以上がAIによって自律的に行われるようになります。
- 自律型金融(Autonomous Finance): AIがあなたの収支、ライフイベント、市場環境をリアルタイムで分析し、最適なローンへの借り換え、余剰資金の投資、保険の切り替えを「自動」で実行します。
8.3 業種間の壁が消滅する「コンバージェンス(融合)」の加速
「小売業」「製造業」「金融業」という区別は意味をなさなくなります。
- 例: 自動車メーカーはもはや「車を作る会社」ではなく、「移動データに基づいた金融・保険・決済を提供するサービス会社」へと完全に変貌します。投資家も、業種別ではなく「どの経済圏(エコシステム)を握っているか」で企業価値を判断するようになります。
8.4 最後に:投資家が持つべき「金融機能を持つ非金融企業」への評価軸
これからの投資家にとって、最も重要な視点は以下の3点に集約されます。
- データの質: その企業は、他社が持っていない「独自の購買・行動データ」を持っているか?
- インフラの柔軟性: 規制の変化や新しい決済手段(デジタル円・ステーブルコイン等)に即座に対応できるBaaS基盤を持っているか?
- 信頼のブランド: ユーザーが「自分の全資産の管理を任せても良い」と思えるほどの強力なブランド力とセキュリティ体制を備えているか?
エンベデッド・ファイナンスを制する企業は、単なる利便性の提供者ではなく、**「次世代の経済圏の支配者」**となります。私たちは今、その歴史的な転換点の真っ只中にいるのです。

コメント